「鬼瓦?」「棟瓦?」瓦屋根の各部位の名称と役割を解説
2023年8月5日
日本の伝統的な建築において、屋根は重要な役割を果たしています。その構造には多様な要素が含まれ、それぞれが独自の機能と呼称を持っています。
例えば、「鬼瓦」や「棟瓦」は、単なる装飾以上の意味を持つ屋根の重要な構成要素です。
この記事では、瓦屋根の主要な部位について、その名称と機能を詳しく解説していきます。
鬼瓦
多くの人が耳にしたことがある「鬼瓦」ですが、その本質的な機能については意外と知られていません。この章では、鬼瓦の果たす重要な役割について詳しく解説します。
鬼瓦の基本
鬼瓦は、日本の伝統的な建築様式において、屋根の最上部である「棟」の端に配置される特殊な瓦です。その名称から想像されるように、鬼の顔を模したデザインが一般的ですが、実際には雲や波などの自然をモチーフにしたものも多く存在します。形状や模様に関わらず、棟の端に設置される瓦は全て鬼瓦と呼ばれます。
鬼瓦の主要な機能【邪気払い】
鬼瓦の起源は意外にも西洋に遡ります。ギリシャ神話に登場するメデューサの伝説が、その原型とされています。恐ろしい存在の象徴を建物に取り入れることで、悪しきものを寄せ付けない「魔除け」や「厄除け」の効果が期待されました。日本では、家族の安全と健康を祈願する場所として棟端が選ばれ、鬼の姿を通じて家屋の守護を願う習慣が根付いていきました。
実用的な役割【雨仕舞い】
鬼瓦には、精神的な意味合いだけでなく、実用的な機能もあります。それが「雨仕舞い」と呼ばれる役割です。鬼瓦は棟の端を覆うことで、雨水が建物内部に侵入するのを防ぎます。適切に設置された鬼瓦は、雨水を効果的に外部へ排出し、建物の耐久性を高める重要な役割を果たしています。
多様な鬼瓦のデザイン
鬼瓦には様々な種類がありますが、一般住宅で使用されるものは比較的限られています。代表的なものをいくつか紹介します。
【古代鬼面型鬼瓦】
奈良時代以前から存在する歴史的な鬼瓦で、立体的な鬼の顔が特徴です。
【覆輪鬼瓦】
鬼の顔ではなく、雲をモチーフにしたデザインで、主に火災除けの願いが込められています。
【蔓若葉鬼瓦】
蔓植物をモチーフにした上品なデザインで、現代的な住宅にも調和しやすい特徴があります。
屋内での鬼瓦の活用
鬼瓦の魔除けとしての効果は広く信じられており、屋根以外の場所でも活用されています。インテリアとしての役割も果たす鬼瓦の使用例を見てみましょう。
【壁掛けタイプ】
伝統的な意味を尊重し、室内の高い位置に飾られることが多いです。
【スタンド付きタイプ】
棚や玄関などに置かれ、簡単に移動できる利点があります。インテリアのアクセントとしても人気があります。
棟瓦
棟瓦は、屋根の最高部に位置する「棟」に使用される特殊な瓦です。本節では、その機能と多様性について詳しく解説します。
棟瓦の基本的な役割
棟瓦は、屋根の頂上部を保護し、美観を整える重要な役割を果たします。和風建築では、複数の瓦を積み上げる「棟積み」という技法が用いられ、最上部に設置される瓦を特に棟瓦と呼びます。
この構造により、雨水の侵入を効果的に防ぎ、同時に建物に風格を与えます。一方、洋風建築では単一の棟瓦を使用し、異なるアプローチで同様の効果を実現しています。
代表的な棟瓦の種類
棟瓦には様々な種類があり、それぞれが独自の特徴を持っています。以下に主要なものを紹介します。
【江戸冠】
伝統的な和風デザインで、幅約16cmの瓦。上部の装飾的な曲線が特徴で、雨水の排水性に優れています。
【七寸丸冠】
洋風建築によく見られる幅広の瓦。約23cmの幅で、棟の隙間を効果的に埋めます。
【平伏間】
平坦な形状の棟瓦で、隙間を最小限に抑えつつ、落ち着いた外観を実現します。
【紐付き三角冠】
三角形の形状で、屋根全体にシャープな印象を与えます。
これらの多様な棟瓦は、建物の様式や所有者の好みに応じて選択され、屋根の機能性と美観を高める重要な役割を果たしています。
棟瓦の施工例
そのほかの日本の屋根瓦
鬼瓦や棟瓦以外にも、日本の伝統的な建築には様々な種類の屋根瓦が存在します。それぞれが独自の役割を持ち、建物の保護と美観の向上に貢献しています。以下に、代表的な瓦の種類とその特徴を紹介します。
桟瓦(さんがわら)
屋根面積の大部分を占める桟瓦は、波状の形状が特徴的です。野地板上の桟木に固定され、個別の交換が容易なため、メンテナンス性に優れています。
軒瓦(のきがわら)
軒先を飾る軒瓦は、中央部のくぼみが雨水を効果的に排水します。外観上重要な位置にあるため、装飾性も高く、建物の印象を左右します。
雪止瓦(ゆきどめがわら)
積雪地域で重要な役割を果たす雪止瓦は、屋根からの雪の滑落を防ぎます。通常、軒先から3段目付近に設置され、豪雪地帯では複数段の使用も一般的です。
袖瓦(そでがわら)
切妻屋根の破風部分を保護する袖瓦は、「けらば瓦」とも呼ばれます。壁側の垂れが雨水の侵入を防ぎ、屋根の耐久性を高めます。
角瓦(かどがわら)
軒と破風の交差部に使用される角瓦は、軒瓦と袖瓦の機能を併せ持ちます。雨樋との干渉を避けるため、先端に切れ込みが入っているのが特徴です。
隅瓦(すみがわら)
寄棟屋根の隅部分に使用される隅瓦には、分割型の「切隅」と一体型の「廻隅」があります。屋根の角を美しく仕上げる重要な役割を担っています。
巴瓦(ともえがわら)
軒先を飾る丸形の巴瓦は、先端の巴紋が特徴的です。火災からの保護を象徴する装飾的要素として、古くから重宝されてきました。
熨斗瓦(のしがわら)
棟瓦の下に重ねて使用される熨斗瓦は、雨水の侵入を防ぐ重要な役割を果たします。複数枚を段状に重ねることで効果的な水切りを実現します。また、空手の瓦割りでも使用される特殊な瓦としても知られています。
冠瓦(かんむりがわら)
棟の最上部に位置する円形の冠瓦は、「雁振瓦」とも呼ばれます。雨仕舞いの機能を持ちつつ、屋根のアクセントとなる装飾性も兼ね備えています。頂部に位置するため、定期的なメンテナンスが重要です。
まとめ
日本の伝統建築において、屋根瓦は単なる飾りではありません。様々な形や役割を持つ瓦が、建物を守り、その美しさを引き立てているのです。
誰もが知る鬼瓦や棟瓦のほかにも、多くの種類の瓦があります。それぞれが特別な場所や目的のために作られています。例えば、桟瓦は屋根の大部分を覆い、軒瓦は建物の印象を決める大切な役目を果たしています。
瓦の働きと取り付け場所を知ることで、建物の手入れがより上手にできるようになります。定期的に点検し、手入れすることが大切です。瓦だけでなく、その周りの部分にも気を配る必要があります。
丁寧に手入れされた屋根瓦は、建物を長持ちさせ、その美しさを保つ重要な要素となります。これらの瓦を通じて、日本の伝統的な建築技術の素晴らしさを感じ取ることができるでしょう。